昨日の土曜日に、滋賀県教育委員会主催による
邦楽器糸の里琴糸の里を歩くツアーに参加してきました。
以前から、木之本町のハシモトさんで製造されている和楽器糸の事は
テレビや新聞などでも見聞しており、その製造工程に興味を抱いた私は
いつか見学出来ればいいと思っていたのですが
今回のこのツアーにて、初めて見学することが出来ました。
木之本の和楽器糸の製造を解釈するに当たって
歴史的な側面や、自然環境から受ける生態系サービス的な側面や
いろいろな観点にて感想を書くことができますが
歴史が大の苦手なので、歴史的な詳しい事は省かせてもらいます(笑)
普段みなさんがテレビやラジオやCDなどで聞いている音楽自体に耳を凝らしてみましょう。
CDが全くと言っていいほど売れなくなってしまっている日本の音楽業界は
文化的にみても非常に憂う事態だと感じています。
90年代の音源の大量生産時代から、それらの音楽をまるで消費物のように聞かせ、
聞いていた構図を、私はいつかこのような状態になると思っていました。
iPodが登場して音楽配信がメインになった現在とうとうくるところまで来てしまったと思います。
そんな時代の変化に疑問をもつようになり、そうした思いを心にもちつつ今回のツアーを
歩くことにしました。
ハシモトさんの工場は木ノ本駅から歩いて直ぐの所にあります。
土曜日でしたが、大勢の見学にも関わらず丁寧に説明をして頂きました。
まず木之本町でこの産業が行われた経緯や、現在の状況などを説明してもらいました。
むかしは木之本町や長浜市などでも養蚕業がさかんだったそうですが
いまでは殆どなくなってしまい、繭は岐阜県から運搬されてそちらの原料を使用しているとの事でした。
まゆは後から記述する大音にある原糸工場に運ばれ生成されます。
その糸がこちらのハシモトさんの工場に運ばれて、めでたく和楽器の弦となるのです。
弦の張り替えが大がかりになる、お琴などはいまでは殆どが耐久性のあるナイロン製の糸だそうですが
三味線や胡弓などに関しては、現在でもこちらの絹糸を原料とする弦が使用されているとのことです。
なぜ、あえて絹糸を使用するかは、ハシモトさんのお話しにもあったように
「倍音成分が豊富」との事でした。
今からお見せする非常に手間のかかる行程は
一流の演奏家のシビアな要求に応えるために行われている大変プレミアムな作業となります。
大音の工場から届いた絹糸を、三味線の弦の規格に併せて
太さ毎に弦にしていきます。
こちらの上の写真は糸をよっている写真です。
撚糸と呼ばれている作業で、テレビなどでも特徴あるアクションがよく映像で使用されています。
上の写真はその、撚糸作業場の風景です。
そのごウコンにて黄色く染色します。
ウコンは防虫効果があるために使用されているとのことです。
染色が終わると、モチ糊にて煮込みます。
このモチ米は虎姫から購入し、こちらの橋本さんにて餅つきをしたオリジナルのノリだそうです。
そして上の写真の乾燥作業と節取り・選別作業になります。
糸の表面に枝毛の様なものを全て和ばさみにて丁寧に削り取ります。
傷が深い物は写真の様に赤にてチェックして、規格外となります。
考えるだけでも気の遠くなるような作業を全て人間がチェックして最終的に
商品になっていきます。
最後竹製のつつに、円上に巻いて
取り外し紙で巻き止め
商品のパッケージに収められて、めでたく
出荷されることになります。
もの凄くざっとした説明なのですが
最終のパッケージになるまでに、気の遠くなるような行程があるのを、説明してもらいました。
たかが弦
されど弦
ネットの世界を賑わす効率主義者のヒーローなどには、理解ができないことかもしれませんが
私たちが普段聞いている良質な音楽や演奏の背景には
こうした有機作業と製造者の技術と、演奏者の技術があってこそ存在するのだと、改めて感じました。
サンプリング音源でシーケンサーが奏でる音と決定的に違うのは
そうした様々なバックグランドを経て、演奏者から奏でる音となって
解る人には解るのでしょう。
そしてこうした産業は全て、近隣周囲の自然環境からの恩恵に関連していることも
改めて感じました。
ハシモトさんの工場をあとに、次は木之本町大音地区に移動します。
「いかぐ糸」と呼ばれる木之本町伊香具地区の糸作りには
邦楽器用に向けた特殊な技法が採用されています。
ハシモトさんの説明でもあったのですが、楽器用には
高い強度が必要なために、糸の成分であるセリシンというタンパク質を除去せずに、糸にする必要があります。
その為に繭の生の状態をなるたけキープした「生挽き」「座繰(ざぐり)」と言った手法がとられています。
岐阜県から輸送されたまゆは、こちらの工場でまず中の幼虫を完全に殺すために
蒸気でいぶされます。
一匹でも生きていると、蛾になってしまって、ほかの糸に悪い影響がでるので
完全に殺すまで、燻されます。
そして、下の写真の行程になります。
座繰と呼ばれる手法にて、繭からでる細い糸を80℃ほどのお湯のなかに浮かべた繭から藁ぼうき(写真手下に置いている)手作業にて抽出して、20本ほどにまとめて
背後にある座繰機に巻かれていきます。
たくさんの蛾の幼虫が死んでしまうのですが
その亡骸は、魚のエサの業者さんに行ったり、畑の肥料として
完全に自然界に循環していくことを伺って、ホッとしました。
そしてきちんと虫供養もされていらっしゃるとの事です。
こちらの糸を原料にした和楽器のパッケージです。
大音地区は国道8号線のすぐ側にある、賤ヶ岳の山麓の集落です。
こうした古民家や、茅葺きの家が集落の中にまだ、存在しています。
こちらのお宅は隣の新家に引っ越しされてからは、生活はされてないとのことで
中を見せて頂きました。
とても綺麗に掃除されていて、りっぱな空間は羨ましい限りでした。
今では集落のなかに4つほどの清水とよばれる池です。
賤ヶ岳山麓の水はこうした絹糸の製造に適した水質だったことも
この周辺にて糸産業が栄えた要因の一つだったのです。
最後は賤ヶ岳の頂上にロープウェイで登って、
戦国焼きみそおむすびを頂きました。
美味しかったです。
今回の見学は、とても考えさせられる事が多かったです。
「倍音」とは音楽をやっている人間だと、よくご存じだと思います。
音というのはキーになる音以外の倍音の構成によって音色が決まってきます。
倍音。自分自身の生活や人間関係に置き換えてみましょう。
ただ安いからと言って、安易に物を選択していませんか?
贅沢をしろとはいいません。
以前コムデギャルソンのデザイナーである川久保氏が朝日新聞の取材で
激安ジーンズに関して、発言された事がインターネットの中で議論されていました。
彼女は「こうした価値観も残って欲しい」と述べている事が
とても川久保氏らしいと感じました。
100%そうした価値観を押しつけるのではなく「こうした価値観が残って欲しい」
ととても控えめに・・・・。
そして、最近音楽プロデューサーの佐久間氏が書いた投稿が
これまたインターネットの中で物議をかもしだしていました。
川久保氏も、佐久間氏も 本質的には近い部分を憂いているんですが
バブルがはじけて、さらに世界不況のまっただ中、今後の様々な産業を
注意深くみていく必要があると思います。
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